ご相談のきっかけ
会社には債権者からの借入金があり、財務内容の改善を図るため、その借入金の一部を資本金等に振り替えるDES(デット・エクイティ・スワップ)を実施したいとのご相談をいただきました。
DESとは、会社に対する金銭債権を会社の株式へ転換する手法です。
例えば、会社が債権者に対して1,000万円の借入金債務を負っている場合、そのうち600万円の貸付金債権を現物出資してもらい、その対価として会社が債権者に株式を発行する方法が考えられます。
これにより、会社側では、
- 有利子負債の削減
- 自己資本の増強
- 債務超過の解消または縮小
- 財務内容の改善
を図ることができます。
今回も、このような財務改善を目的としてDESを実施することとなりました。
状況の整理
DESを会社法上の手続として実行する場合、一般的には、債権者が会社に対して有する貸付金債権を「現物出資財産」として出資し、会社がその対価として募集株式を発行します。
通常、500万円を超える財産を現物出資する場合には、原則として裁判所が選任する検査役による調査等が問題となります。
もっとも、会社法第207条第9項第5号では、
会社に対する金銭債権で、弁済期が到来しており、募集事項として定めた価額が当該債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合
には、検査役による調査を不要としています。
そのため、一定の要件を満たすDESについては、比較的簡易な手続で実行することができます。
今回の案件では、この特例を利用してDESを実施することとなりました。
しかし、実務上もう一つ問題となったのが、
「今回、現物出資する貸付金債権は具体的にどの債権なのか」
という点でした。
今回、会社と債権者との間では、一度だけ1,000万円を貸し付けたというような単純な債権債務関係ではありませんでした。
過去に複数回にわたって、
借入れ → 一部返済 → 再度借入れ → 返済 → 再度借入れ
という取引が繰り返されていました。
その結果、会計帳簿上、債権者に対する借入金残高が1,000万円存在すること自体は確認できるものの、そのうち600万円をDESの対象とする場合、
「1,000万円のうち、具体的にどの貸付金債権600万円を現物出資するのか」
を明確にする必要がありました。
このようなケースでは、会社と債権者との間に存在する複数の債権債務関係を整理したうえで、準消費貸借契約を締結し、既存の複数の債権を一つの債権として整理する方法も考えられます。
しかし、準消費貸借契約を新たに締結する場合には契約手続が追加で必要となるほか、書面で作成する内容によっては印紙税についても検討する必要があります。
そこで今回は、準消費貸借契約によって債権を一本化するのではなく、既存の貸付金債権の中から、現物出資する債権そのものを具体的に特定する方法を採用しました。
対応方法
まず会社の会計帳簿や過去の貸付け・返済の経緯を確認し、債権者が会社に対して有している貸付金債権の内容を整理しました。
そのうえで、DESの対象となる貸付金債権について、単に、
「債権者が会社に対して有する貸付金1,000万円のうち600万円」
とするのではなく、過去に発生した貸付金債権を基準として、現物出資の対象を具体的に特定しました。
例えば、
「債権者○○の当社に対する本日現在の貸付金1,000万円のうち、○年○月○日付けの貸付金○万円から発生順に金600万円に満つるまで」
という方法です。
これにより、
- 現在の貸付金債権の総額
- そのうちDESの対象とする金額
- どの時点で発生した貸付金から現物出資の対象とするのか
- どの順序で600万円までを対象とするのか
を明確にしました。
そのうえで、募集株式の発行に必要となる株主総会又は取締役会等の議事録、募集株式の引受けに関する書類、現物出資の対象となる貸付金債権を確認できる会計帳簿等を整備し、DESによる増資登記を申請しました。
DESでは、会社に対する貸付金債権そのものが現物出資財産となります。
そのため、
「どの債権が会社に対して現物出資されたのか」
が明確でなければなりません。
特に、会社と債権者との間で長期間にわたり借入れと返済が繰り返されている場合、会計帳簿の最終的な借入金残高だけを見ても、現物出資する債権を一見して特定することが難しいケースがあります。
商業登記実務上も、このような場合には、債権債務関係を整理して準消費貸借契約を締結する方法が合理的な方法の一つとされています。
もっとも、準消費貸借契約を締結しなければDESができないわけではありません。
今回のように、
①会社に対する貸付金債権の全額
②そのうち現物出資する金額
③どの時点で発生した債権から対象とするのか
④その後は発生順に所定の金額に達するまでを対象とすること
を明確にすることによって、現物出資の対象となる債権を特定できる場合があります。
結果
会社と債権者との間で繰り返されていた借入れ・返済の履歴を整理したうえで、DESの対象となる貸付金債権を具体的に特定し、募集株式の発行による増資登記を行いました。
これにより、会社が負担していた借入金の一部を株式へ転換し、
有利子負債の削減と自己資本の増強
を実現しました。
結果として、会社の債務超過の解消・縮小や財務内容の改善につながる資本政策を、商業登記手続まで含めて実行することができました。
また、今回は複数の貸付金債権を準消費貸借契約によって一本化するのではなく、既存の債権について発生日と発生順を基準として現物出資対象を特定することにより、DESを実行しました。
代表司法書士からのひとこと
DES(デット・エクイティ・スワップ)は、「Debt(債務)」を「Equity(株式・資本)」へ交換する手法です。
会社にとっては、返済義務のある借入金を資本金等へ振り替えることになるため、有利子負債を削減するとともに自己資本を増強することができます。
そのため、
「役員や株主からの借入金が多額になっている」
「債務超過を縮小・解消したい」
「融資や事業再生に向けて財務内容を改善したい」
といった場合に、DESが選択肢の一つになることがあります。
もっとも、DESは単純な「借入金から資本金への振替処理」ではありません。
会社法上は、会社に対する金銭債権を現物出資財産とした募集株式の発行として手続きを行うことになるため、
- 現物出資する債権が実際に存在するか
- その債権の弁済期が到来しているか
- 現物出資する債権を具体的に特定できているか
- 会社法第207条第9項第5号の要件を満たすか
- 株主総会・取締役会等でどのような決議が必要か
- 資本金・資本準備金をそれぞれいくら増加させるか
- 税務・会計上どのような影響が生じるか
などを事前に検討する必要があります。
特に、役員・株主と会社との間で長年にわたり借入れと返済を繰り返している会社では、帳簿上の借入金残高だけを確認するのではなく、「どの貸付金債権をDESの対象とするのか」まで明確に設計することが重要です。
福岡アルブル司法書士事務所では、DESをはじめ、増資、減資、種類株式、組織再編、M&A等の資本政策について、会社法・商業登記の観点から手続きをサポートしています。
「役員借入金を資本金に振り替えたい」
「DESによって債務超過を改善したい」
「借入れと返済が繰り返されていて、どの債権を現物出資すればよいか分からない」
といった場合にも、お気軽にご相談ください。
※当サイトに掲載している事例には、福岡アルブル司法書士事務所で取り扱った案件のほか、代表司法書士がこれまでの司法書士業務において実際に担当・関与した案件を含みます。守秘義務及びプライバシー保護の観点から、案件を特定できないよう、会社名・金額・時期その他の事情を一部変更・一般化して掲載しています。