ご相談のきっかけ
ご相談者様は、スタートアップ企業等への投資を行うVCファンドの立ち上げを計画されていました。
ファンドの法的な枠組みとして、投資事業有限責任組合、いわゆる**LPS(Limited Partnership)**を利用することとなり、LPS契約の効力発生登記の手続についてご相談をいただきました。
LPSは、ファンドの運営を担う**無限責任組合員(GP/General Partner)と、資金提供者である投資家たる有限責任組合員(LP/Limited Partner)**から構成される組合です。
株式会社等とは異なり法人格を有しませんが、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ等の投資ファンドにおいて広く利用される仕組みとなっています。
そこで今回は、ベンチャーキャピタルファンドとしてLPSを組成し、スタートアップ企業等への投資を開始できる体制を整えることとなりました。
状況の整理
投資事業有限責任組合は、株式会社のように「設立登記をすることによって成立する法人」ではありません。
投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)第3条では、「各当事者が出資を行い、共同で同条所定の事業を営むことを約することによって、LPS契約の効力が生じるもの」とされています。
したがって、LPSは登記によって成立するのではなく、組合契約の効力が発生した後に、その効力発生について登記するという点が株式会社等との大きな違いです。
LPS契約書には、少なくとも、
- 組合の事業
- 組合の名称
- 組合の事務所の所在地
- 組合員の氏名または名称及び住所、GP・LPの別
- 出資一口の金額
- 組合契約の効力発生日
- 組合の存続期間
などを定める必要があります。
そして、LPS契約が効力を生じた場合には、2週間以内に、組合の主たる事務所の所在地において効力発生の登記を行う必要があります。
今回も、ファンドの投資方針や運営スキームを反映したLPS契約の内容と登記事項を照合しながら、効力発生日に合わせて登記申請の準備を進める必要がありました。
投資事業有限責任組合では何を登記するのか
LPS契約の効力発生登記では、主に次の事項が登記されます。
- 組合の名称
- 組合の事務所の所在場所
- 組合契約の効力が発生する年月日
- 組合の事業
- 無限責任組合員(GP)の氏名または名称及び住所
- 組合の存続期間
- LPS法第13条第1号から第3号までに掲げる事由以外の解散事由を契約で定めた場合、その事由
ここで注意が必要なのは、有限責任組合員(LP)の氏名・名称はLPS契約書の記載事項ではありますが、効力発生登記の登記事項ではないという点です。
一方、GPについては、その氏名・名称及び住所が登記簿上に公示されます。
そのため、契約書の内容をそのまま機械的に登記申請書へ転記するのではなく、LPS法上の「契約書記載事項」と「登記事項」を区別して整理する必要があります。
今回特有の論点① 契約独自の「解散事由」も登記事項になる
今回、LPS契約を確認するうえで特に注意したのが、組合の解散事由でした。
LPS法第13条には一定の法定解散事由が定められています。
もっとも、実際のファンド契約では、それらとは別に、ファンド固有の事情に応じた解散事由が定められていることがあります。
例えば、
「有限責任組合員の全員一致により本組合の解散が決定されたこと」
「全ての有限責任組合員が適格機関投資家でなくなることその他の事由により、本組合を適法に運営することが困難であると無限責任組合員が合理的に判断した場合」
などです。
このように、LPS法第13条第1号から第3号までに掲げられた事由以外の解散事由を組合契約に定めている場合には、その解散事由自体が登記事項となります。
この点は、登記手続上見落としやすい事項の一つです。
そのため、単に契約書の表紙部分や基本条項だけを確認するのではなく、契約書全体から登記対象となる事項を抽出し、登記漏れが生じないよう確認しました。
今回特有の論点② 令和7年4月1日施行のLPS法改正
LPSの組成にあたっては、組合が行うことのできる「事業」の内容にも注意が必要です。
LPS法第3条第1項では、LPSが行う投資事業の範囲が列挙されています。
近年、このLPSの投資対象について法改正が行われており、特に令和7年4月1日からは、一定の暗号資産の取得・保有が新たにLPSの投資対象として追加されています。
これにより、Web3.0分野のスタートアップが資金調達のために発行する暗号資産等についても、一定の範囲でLPSによる投資が可能となりました。
また、一連のLPS法改正では合同会社の持分も投資対象として追加されるなど、スタートアップの資金調達手段の多様化に対応する制度改正が進められています。
したがって、LPSの「組合の事業」を定める場合には、古い契約書や過去の登記例をそのまま使用するのではなく、現在のLPS法第3条の内容に合わせて投資対象を確認することが重要です。
今回も、ファンドが予定する投資内容と最新のLPS法上認められている事業範囲を確認したうえで、組合契約及び登記事項を整理しました。
対応方法
まずファンドの組成スキームについて、
- ファンドの名称
- 主たる事務所
- GPとなる者
- LPとなる投資家
- 出資一口の金額
- 組合契約の効力発生日
- ファンドの存続期間
- 投資対象となる事業
- 契約上定められている解散事由
などを確認しました。
そのうえで、投資事業有限責任組合契約書の内容を登記実務の観点から精査し、LPS法第17条に基づいて登記すべき事項を抽出しました。
特に、「組合の事業」については、LPS法第3条の改正内容も踏まえ、実際に予定されている投資内容との整合性を確認しました。
また、「組合の存続期間」についても、単純に終了年月日だけを定めるのではなく、契約上、GPの判断やLPの同意等によって存続期間を延長できる仕組みが設けられている場合には、その契約内容を踏まえて登記事項を整理しました。
さらに、組合契約にLPS法上の法定解散事由以外の独自の解散事由が存在していたため、当該解散事由についても登記事項として漏れなく反映しました。
必要となる、
- 投資事業有限責任組合契約書
- GPに関する資格証明情報・印鑑証明書等
- 登記申請の委任状
- 印鑑届関係書類
等を準備し、組合契約の効力発生日から法定期間内に、「投資事業有限責任組合契約の効力発生」の登記を申請しました。
なお、LPS契約の効力発生登記の登録免許税は3万円です。
結果
投資事業有限責任組合契約の内容とLPS法上の登記事項を整理し、予定していた効力発生日に合わせてVCファンドを組成することができました。
これにより、GP・LPによるVCファンドとしての組合体制を整え、スタートアップ企業等への投資を行うための法的基盤を構築することができました。
代表司法書士からのひとこと
VCファンドを組成する場合、「株式会社を設立する」のとは異なる法務手続が必要になります。
その代表的なファンドビークルが、投資事業有限責任組合(LPS)です。
LPSでは、ファンド運営を担うGPが無限責任を負う一方、LPは原則としてその出資額を限度として責任を負う仕組みとなっており、国内のVCファンドやPEファンド等で広く利用されています。
一方、登記実務の観点から見ると、様々な注意点があります。
例えば、
- LPSは登記によって成立するのではなく、契約の効力発生後に登記を行うこと
- LPS契約の効力発生後2週間以内に登記が必要となること
- LPは契約書には記載されるものの、その氏名・名称は効力発生登記の登記事項ではないこと
- GPの氏名・名称及び住所は登記事項となること
- 組合契約上の「組合の事業」がLPS法第3条の範囲に適合しているか確認する必要があること
- 存続期間の延長に関する定めがある場合、その内容も踏まえて登記事項を検討する必要があること
- 法定の解散事由以外の解散事由をLPS契約で定めた場合には、その事由も登記しなければならないこと
などです。
特に最後の「解散事由」は注意が必要です。
LPS契約には、ファンド運営に必要な様々な条項が定められるため、契約書が相当な分量となるケースも珍しくありません。
その中に、例えば、
「全ての有限責任組合員が適格機関投資家でなくなることその他の事由により、本組合を適法に運営することが困難であると無限責任組合員が合理的に判断した場合」
などの独自の解散条項が置かれていれば、その内容がLPS法第17条上の登記事項に該当する可能性があります。
そのため、LPSの効力発生登記では、単に依頼者から提示された登記事項だけを申請するのではなく、LPS契約書全体を確認して、契約内容と登記簿の内容を整合させることが重要です。
また、LPSを取り巻く法制度は近年改正が続いています。
令和7年4月1日には、Web3スタートアップへの資金供給を促進する観点から、一定の暗号資産の取得・保有がLPSの投資対象として追加されました。経済産業省も、令和7年には新たなモデルLPA(投資事業有限責任組合契約書例)を公表しています。
したがって、過去に使用したLPS契約書や登記書式をそのまま流用するのではなく、ファンドを組成する時点の最新法令・契約内容に合わせた確認が必要です。
福岡アルブル司法書士事務所では、投資事業有限責任組合(LPS)をはじめ、
- LPSの効力発生登記
- 組合の事業・存続期間等の変更
- ファンド名称・事務所の変更
- LPSの解散・清算結了の登記
- ファンドによるスタートアップへの出資に伴う増資登記
など、ファンド・スタートアップに関する商業・法人登記手続きをサポートしています。
「LPS契約を作成したが、何を登記すればよいか分からない」
「LPS契約の内容と登記事項が合っているか確認してほしい」
といった場合にも、お気軽にご相談ください。
※当サイトに掲載している事例には、福岡アルブル司法書士事務所で取り扱った案件のほか、代表司法書士がこれまでの司法書士業務において実際に担当・関与した案件を含みます。守秘義務及びプライバシー保護の観点から、案件を特定できないよう、会社名・金額・時期その他の事情を一部変更・一般化して掲載しています。