ご相談のきっかけ
ご相談者様は、複数の事業を展開している株式会社でした。
今後のグループ経営を考える中で、会社内の特定の事業部門について、既存会社から切り離し、独立した子会社として運営したいとのご相談をいただきました。
事業を子会社化することにより、
- 事業ごとの収益や財務状況を明確にしたい
- 各事業の責任者に一定の権限を持たせたい
- 将来的に後継者へ特定事業の経営を任せたい
- 将来のM&Aや事業承継にも対応しやすい組織体制をつくりたい
といった目的を実現しやすくなります。
そこで、対象となる事業に関する資産・債務・契約関係等を新たに設立する会社へ承継させる「新設分割」を利用して、子会社を設立することとなりました。
状況の整理
新設分割とは、株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、新設分割によって設立する会社へ承継させる組織再編手続です。
新設分割では、
「新しい会社を設立すること」
と
「既存会社から新会社へ事業に関する権利義務を承継させること」
を一体的に行うことができます。
例えば、既存会社がA事業とB事業を営んでいる場合に、B事業に関する資産・債務・契約等を新たに設立する会社へ承継させることで、
既存会社(親会社)
↓
新設会社(B事業を営む子会社)
というグループ体制を構築することができます。
今回も、分割会社が新設会社の株式を取得する「分社型新設分割」の方法を採用し、新設会社を100%子会社とする方向で手続きを進めました。
この方法は、特定の事業部門を子会社として独立させたい場合のほか、将来的な事業承継に向けて、特定事業を子会社化したうえで後継者に経営を任せていく場面などでも活用することができます。
今回特有の論点
今回の手続で特に重要となったのが、債権者異議手続をどのように取り扱うかという点でした。
新設分割では、分割会社の債権者のうち、新設分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者は、新設分割について異議を述べることができます。
このような債権者が存在する場合、原則として、
- 官報への公告
- 知れている債権者への個別催告
- 1か月以上の異議申述期間の確保
といった債権者異議手続を行う必要があります。
この債権者異議手続が終了していなければ、新設分割による設立登記を行うことができません。
そのため、一般的な新設分割では、官報公告の掲載準備期間も含め、手続全体のスケジュールに相応の期間を確保する必要があります。
しかし今回は、できる限り効率的に子会社設立を進めたいとのご希望がありました。
そこで、承継する債務について、**新設会社だけが債務者となるのではなく、分割会社も引き続き債務を負担する「併存的債務引受」**とする方法を検討しました。
併存的債務引受により債権者異議手続を省略
新設分割によって債務を新設会社へ承継させた結果、債権者が従来の分割会社に請求できなくなる場合には、当該債権者を保護するため、債権者異議手続が必要となります。
一方、承継対象となる債務について、分割会社も引き続き債務を負担する設計とすれば、債権者は新設分割後も分割会社に対して債務の履行を請求することができます。
つまり、
新設分割前
債権者
↓
分割会社
という関係から、
新設分割後
債権者
↓ ↓
分割会社 + 新設会社
という形にすることで、債権者にとって従来の請求先が失われないようにします。
今回はこちらの方法を採用し、新設会社に承継される債務について、分割会社が併存的に債務を負担する内容を新設分割計画に定めました。
これにより、今回のケースでは、新設分割に伴う官報公告・個別催告を含む債権者異議手続そのものを省略して手続きを進めることができました。
対応方法
対応方法として、まず、
- 子会社化する対象事業分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項)
- 新設会社の商号・目的・本店等、その他定款で定める事項
- 新設会社の役員構成
- 新設会社の資本金等
- 今後のグループ経営方針
などを確認し、新設分割の全体設計を行いました。
そのうえで、新設分割計画書を作成し、対象事業に関する権利義務について「承継権利義務明細表」を作成しました。
会社分割では、対象となる事業について、資産・債務・契約その他の権利義務をどこまで新会社に承継させるかを適切に定めることが重要です。
また今回は、債権者異議手続を省略するため、新設会社へ承継する債務についても単純に新設会社だけへ移転させるのではなく、分割会社が引き続き債務を負担する併存的債務引受となるよう新設分割計画を設計しました。
併せて、
- 新設分割計画の承認手続
- 株主に関する手続
- 事前開示書面の作成・備置き
- 新設会社の定款作成
- 設立時役員に関する書類
- 新設分割による設立登記
- 分割会社側の変更登記
- 事後開示書面
まで、新設分割に必要となる一連の会社法・商業登記手続を整理しました。
結果
新設分割によって、既存会社が営んでいた特定の事業を新たな子会社へ承継させ、対象事業を独立した会社として切り出すことができました。
また、新設会社へ承継する債務について併存的債務引受の方法を採用することにより、通常であれば1か月以上の期間を要する債権者異議手続を省略することができました。
これにより、
特定事業の切出し
↓
新設分割による子会社設立
↓
対象事業に関する権利義務の承継
↓
独立した子会社として事業を開始
という一連の組織再編を、スケジュール上の負担を抑えながら実現しました。
事業部門を独立した法人として運営できるようになったことで、事業ごとの管理体制を明確にするとともに、今後のグループ経営や事業承継にも対応しやすい会社体制を構築することができました。
代表司法書士からのひとこと
会社の中に複数の事業がある場合、
「この事業だけを子会社として独立させたい」
「成長している事業部門を別会社として管理したい」
「将来的に後継者へ特定事業の経営を任せたい」
といったご相談をいただくことがあります。
そのような場合、新会社を設立したうえで個別に資産や契約を移転する方法もありますが、「新設分割」を利用することも有力な選択肢となります。
新設分割では、新会社の設立と同時に、新設分割計画で定めた事業上の権利義務を新会社へ承継させることができます。
そのため、会社の一部門を切り出して子会社化する場合や、グループ会社を利用した事業承継を検討する場合などに適した手法です。
もっとも、新設分割では、
- どの資産・債務・契約を承継させるのか
- 従業員をどのように取り扱うのか
- 債権者異議手続が必要となるか
- 株主総会の承認が必要となるか
- 許認可を承継できるか
- 不動産や担保権について別途登記が必要か
- 新設会社の資本金等をどのように設定するか
など、多くの事項を事前に整理する必要があります。
特に、債権者異議手続については、原則どおり手続きを行うと1か月以上の異議申述期間が必要となり、官報公告の掲載準備期間も含めると、新設分割全体のスケジュールに大きく影響します。
一方、今回のような分社型新設分割では、承継する債務について分割会社が併存的に債務を負担する設計とすることで、債権者異議手続を省略できる場合があります。
そのため、
「いつまでに新会社を立ち上げたいのか」
「どの債務を新会社へ移したいのか」
「分割会社に債務を残しても問題がないのか」
といった点まで踏まえて、最初の段階でスキームを設計することが重要です。
なお、会社分割は許認可や契約の内容によっては、会社分割によって当然に承継されないものや、行政庁・契約相手方との事前調整が必要となるものもあります。
そのため、会社分割を検討する際には、登記手続だけでなく、税務・会計・労務・許認可等についても必要に応じて各専門家と連携しながら進めることが重要です。
福岡アルブル司法書士事務所では、新設分割・吸収分割をはじめ、合併、株式交換、株式移転、事業譲渡等の組織再編・M&Aについて、会社法・商業登記の観点から手続きをサポートしています。
「会社の一部事業を子会社化したい」
「後継者に特定事業の経営を任せるため、グループ会社をつくりたい」
「会社分割を検討しているが、債権者異議手続に時間をかけたくない」
といった場合にも、お気軽にご相談ください。
※当サイトに掲載している事例には、福岡アルブル司法書士事務所で取り扱った案件のほか、代表司法書士がこれまでの司法書士業務において実際に担当・関与した案件を含みます。守秘義務及びプライバシー保護の観点から、案件を特定できないよう、会社名・金額・時期その他の事情を一部変更・一般化して掲載しています。