ご相談のきっかけ
F社様は、事業そのものは継続しているものの、過年度に生じた損失が積み重なり、貸借対照表上、繰越利益剰余金がマイナスとなっていました。
今後の会社経営を見据える中で、「過去の損失を整理し、財務体質を整えたい」とのご相談をいただきました。
そこで、顧問税理士とも会計・税務上の処理を確認していただきながら、法務面から「資本金の額の減少(減資)」と「損失処理」を組み合わせた手続きを検討することとなりました。
状況の整理(タイムライン)
今回のポイントは、単に登記上の資本金を減らせばよいわけではないことでした。資本金の額を減少した場合、その減少額は原則として「その他資本剰余金」に振り替えられます。
そのうえで、繰越利益剰余金のマイナスを解消するためには、別途「損失処理」を行い、その他資本剰余金を繰越利益剰余金へ振り替える手続を検討する必要があります。
そのため、今回のケースでは、
①資本金の額の減少
↓
②減少額をその他資本剰余金へ振替え
↓
③損失処理により繰越利益剰余金のマイナスを解消
という流れで整理しました。
対応方法
まず「資本金をいくら減少させるのか」「減少した資本金をどのように処理するのか」を整理したうえで、顧問税理士とも連携いただきながら、減資から損失処理までの全体的なスキームを確認しました。特に今回のように、資本金の額の減少と併せて繰越利益剰余金のマイナスを解消する場合には、減資の決議だけで手続が完結するわけではありません。
減資によって生じたその他資本剰余金を利用して損失処理を行うため、株主総会において、資本金の額の減少に関する議案と併せて、剰余金の処分に関する議案についても適切に決議する必要があります。
そこで、会社の機関設計や株主構成を確認したうえで、
・取締役会等による社内承認
・株主総会の招集・決議(資本金の額の減少、損失処理)
・官報公告、知れている債権者への個別催告
・減資の効力発生
・資本金の額の変更登記
までの手続きを一連のスケジュールとして組み立てました。
債権者異議手続を見据えたスケジュール管理
減資手続で特に注意が必要なのが、債権者異議手続です。減資については、会社の債権者に異議を述べる機会を与える必要があり、官報公告や、原則として知れている債権者への個別催告を行います。異議申述期間は最低でも1か月必要であり、この手続が必要なケースでは、必要な債権者保護手続を完了しなければ減資の効力を生じさせることができません。
また、官報公告や債権者への催告によって、会社が減資を行うことが外部に知られる可能性があります。「減資」という言葉にネガティブな印象を持たれる可能性もあるため、レピュテーションへの影響にも配慮しながら、いつ、どのタイミングで公告・催告を行うのかを検討しました。
スケジュールが非常にタイトな場合には、債権者異議手続を先行させることも選択肢となりますが、今回は可能な限り適切な社内承認を経たうえで手続きを進めるよう全体の工程を設計しました。
損失処理に伴う会計処理についても確認
今回の目的は、資本金の額を減少させることそのものではなく、過年度から生じている繰越損失を整理することにありました。会計上、資本剰余金と利益剰余金を自由に振り替えることは原則として認められていません。一方で、利益剰余金全体がマイナスとなっている場合に、そのマイナスをその他資本剰余金で補填することについては、一定の範囲で認められています。そのため、単純に「繰越利益剰余金のマイナス額と同額を振り替えればよい」と判断するのではなく、利益準備金を含む利益剰余金全体の状況を確認することが重要です。
法務・登記面の手続きを整理するとともに、具体的な会計・税務処理については顧問税理士と確認いただきながら進めることで、法務と会計の処理に齟齬が生じないよう手続きを進めました。
結果
必要な社内決議、債権者異議手続、官報公告等をスケジュールどおりに実施し、予定していた効力発生日に資本金の額の減少と損失処理を行うことができました。その後、法務局への資本金の額の変更登記も完了。
過年度から残っていた繰越利益剰余金のマイナスを整理し、今後の事業運営を見据えた財務体質の改善につなげることができました。単に登記上の「資本金の額」を変更するだけではなく、会社が今後どのような財務状態を目指すのかを踏まえ、税理士とも連携しながら法務手続を組み立てた事例となりました。
代表司法書士からのひとこと
「減資」と聞くと、「経営状態が悪い会社が行うもの」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には、過年度から積み上がった損失を整理して財務体質を改善したり、今後の資本政策を見据えて資本金の額を適正化したりするなど、会社の財務戦略の一環として減資が活用されるケースもあります。
一方で、減資は「株主総会で決議して登記をすれば終わり」という手続ではありません。債権者異議手続では最低1か月の期間を確保する必要があるほか、官報公告、債権者への催告、株主総会・取締役会等の社内手続、損失処理に関する決議など、複数の手続きを並行して進める必要があります。
そのため、実務上は効力発生日から逆算したスケジュール管理が非常に重要です。また、減資と同時に欠損填補を行う場合には、会社法だけでなく、会計・税務上どのように処理するのかについても検討が必要になります。
福岡アルブル司法書士事務所では、資本金の額の減少に必要となる株主総会・取締役会の設計、官報公告、債権者異議手続、登記申請まで一貫してサポートするとともに、必要に応じて顧問税理士等とも連携しながら、会社の目的から逆算した手続きをご提案しています。
「決算書上の繰越損失を整理したい」
「減資を検討しているが、何から始めればよいかわからない」
「いつまでに手続きを始めれば希望する日までに減資できるのか知りたい」
といった場合には、お早めにご相談ください。
※当サイトに掲載している事例には、福岡アルブル司法書士事務所で取り扱った案件のほか、代表司法書士がこれまでの司法書士業務において実際に担当・関与した案件を含みます。守秘義務及びプライバシー保護の観点から、案件を特定できないよう、会社名・金額・時期その他の事情を一部変更・一般化して掲載しています。