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【2026年民法改正】「保管証書遺言」とは?デジタル遺言・押印廃止など遺言制度の改正ポイントを司法書士が解説

  • 投稿:2026年09月30日
【2026年民法改正】「保管証書遺言」とは?デジタル遺言・押印廃止など遺言制度の改正ポイントを司法書士が解説
この記事の要点

2026年6月17日に成立した民法等改正法により、パソコンで作成した遺言を法務局が保管する「保管証書遺言」が民法967条に第4の遺言方式として創設され、遺言・成年後見制度が見直されます。

  • 民法等の一部を改正する法律は2026年6月17日に成立、同月24日に公布され、2026年9月時点では未施行です。
  • 保管証書遺言は全文の自書が不要で、遺言者が遺言書保管官の前で遺言全文を口述し、法務局が本人確認と保管を行う新方式です。
  • 保管証書遺言は家庭裁判所の検認が不要で、相続発生後に遺言執行や相続登記等へ進められます。
  • 保管証書遺言では遺言者が保管申請を撤回した場合、その保管証書遺言自体を撤回したものとみなされます。
  • 押印の任意化や特別方式の見直しは公布から1年以内、保管証書遺言の創設は公布から3年以内に政令で定める日に施行されます。

2026年成立の民法等改正法で創設される「保管証書遺言」や押印任意化を福岡アルブル司法書士事務所が解説。従来3方式との違いや施行スケジュール、経営者・事業承継での遺言活用の注意点まで分かります。

2026年6月に成立した民法等改正法で、遺言制度が大きく見直されます。パソコンで作った遺言を法務局で保管する新方式など、経営者や相続を控える方に関わる内容です。本記事では改正の全体像と実務上の注意点を分かりやすく解説します。

2026年民法等改正法の成立と遺言制度見直しの全体像

2026年6月17日、遺言制度や成年後見制度の見直しを内容とする「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました。相続実務に幅広く影響する内容で、経営者や資産をお持ちの方にとって見逃せない改正です。

法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について

まずはこの章で、改正の背景・施行スケジュールという2つの視点から、全体像を整理していきます。細かな要件に入る前に、改正の狙いをつかんでおきましょう。

改正法成立の背景と今回の見直しの狙い

今回の改正の背景には、社会のデジタル化と、遺言をより利用しやすくしたいという要請があります。従来の自筆証書遺言は財産目録を除く遺言本文の手書きが原則で、作成の負担が大きかったほか、紛失、隠匿、毀損、改ざん等のリスクが課題とされてきました。

そこで、パソコン等で作成した遺言を法務局が保管する新方式の創設や、押印要件の任意化、特別方式の遺言へのデジタル技術の導入などが盛り込まれました。遺言を身近にしつつ、安全性も確保する方向での見直しといえます。

施行スケジュールは一律ではない——1年以内・3年以内の区分

注意したいのは、改正法は成立・公布されたものの、本記事作成の2026年9月30日時点で、まだ施行されていない点です。しかも施行時期は一律ではありません。改正内容ごとに施行日が段階的に定められる予定です。

押印の任意化や特別方式の遺言に関する改正などは「公布の日から1年を超えない範囲内」、保管証書遺言の創設などシステム改修を要するものは「公布の日から3年を超えない範囲内」で、それぞれ政令で定める日に施行されます。

改正内容施行時期の目安
押印の任意化・特別方式の見直し等公布から1年以内
保管証書遺言の創設等公布から3年以内

新しい遺言方式「保管証書遺言」とは——従来3方式との違い

今回の改正で最も注目されるのが、新しい遺言方式である保管証書遺言の創設(新民法968条の2、同法968条の3)です。この章では、その法的な位置づけと、従来の遺言方式との違いを整理します。

「デジタル遺言」と呼ばれることもありますが、その理解には注意が必要です。制度の全体像を正しくつかんでおきましょう。

民法967条に加わる「第4の方式」という位置づけ

現行の民法967条では、普通方式の遺言として自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3つが定められています。改正後は、ここに新たに保管証書遺言が加わります。

(普通の方式による遺言の種類)
民法 第967条 遺言は、自筆証書、保管証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

つまり保管証書遺言は、現在の「自筆証書遺言書保管制度」の単なるデジタル化や運用変更ではありません。民法上、新たな遺言方式そのものが創設されるという点が重要なポイントです。

参考:現行の自筆証書遺言書保管制度

「デジタル遺言」との呼称と法律上の正式名称の関係

報道などでは「デジタル遺言」と紹介されることがありますが、法律上の正式な名称は「保管証書遺言」です。呼び方の違いに惑わされず、正式名称で理解しておくと制度の内容を正確に把握しやすくなります。

また「Wordで遺言書を作って保存しておけば、それだけで遺言になる」という制度ではない点にも注意が必要です。一定の方式を満たしたうえで法務局に保管されることが、保管証書遺言の重要な要件となります。

(保管証書遺言)
民法 第968条の2 保管証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、遺言の全文(電磁的記録に記録された場合にあっては、遺言の全文及び氏名)が記載され、又は記録された証書について、署名又はこれに代わる措置として法務省令で定めるものを講ずること。
二 遺言者が、遺言書保管官(法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成三十年法律第七十三号)第四条に規定する遺言書保管官をいう。以下この款において同じ。)の前で、その証書に記載され、又は記録された遺言の全文を口述すること。
2 前項の規定によりした遺言は、法務局における遺言書の保管等に関する法律の定めるところにより当該遺言に係る証書を保管しなければ、その効力を生じない。

自筆証書・公正証書・秘密証書との比較

保管証書遺言の特徴は、全文の自書が不要で、法務局(遺言書保管官)が本人確認と保管を行う点にあります。作成の負担を抑えつつ、紛失・改ざんのリスクにも対応できる方式といえます。

方式全文自書保管検認
自筆証書遺言原則必要自己または法務局原則必要(保管制度利用時は不要)
保管証書遺言不要法務局不要
公正証書遺言不要公証役場不要
秘密証書遺言不要自己必要

保管証書遺言の作成要件と法務局での手続きフロー

ここからは、保管証書遺言を作成するための具体的な要件と、法務局での手続きの流れを見ていきます。作成方法から署名、口述、保管までのステップを順に確認しましょう。

なお、電子署名の方法やシステム仕様など詳細は今後定められる予定です。現段階で公表されている枠組みをもとに解説します。

作成方法(紙面・電磁的記録)と署名・電子署名の要件

保管証書遺言では、遺言全文を自書する必要がありません。パソコンで作成して印刷する方法や、PDF等の電磁的記録として作成する方法が認められる見込みです。

書面による場合は遺言者本人の署名が必要となり、電磁的記録による場合は電子署名など、今後政令・省令等で定められる措置を講じることになります。作成方法が広がる一方、本人性を確保する仕組みが求められる点が特徴です。

遺言書保管官の前での「全文口述」と財産目録の扱い

保管証書遺言の大きな特徴が、遺言者が遺言書保管官の前で遺言の全文を口述することです。証書の作成・署名に加え、この口述が方式要件とされています。

ただし財産目録については、遺言書保管官が遺言者に閲覧させるなど法務省令で定める措置を講じた場合には、全文を口述する必要はありません。また口がきけない方は、通訳人の通訳による申述や自書によって口述に代えることができます。

ステップ1:証書の作成と署名(電子署名)

手続きの第一歩は、遺言の全文を記載・記録した証書を作成することです。紙面であれば印刷して署名し、電磁的記録であればデータを作成して電子署名等を行います。

この段階で内容を確定させるため、財産や受遺者の記載等に漏れや誤りがないかを丁寧に確認することが大切です。内容が複雑な場合は、事前に専門家の関与を検討するとよいでしょう。

ステップ2:遺言書保管官への口述・本人確認

次に、遺言者は法務局において遺言書保管官の前で遺言全文を口述し、あわせて本人確認を受けます。氏名等を確認する資料の提示や説明を求められることが想定されています。

この本人確認と口述は、後述のとおり法務局への出頭だけでなく、一定の場合にWEB会議を利用する方法も予定されています。手続きの具体的な運用は今後定められます。

ステップ3:法務局での保管と検認不要のメリット

要件を満たした遺言は、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」に基づき法務局で保管されます。書面の場合は施設内に保管され、電磁的記録の場合は遺言書保管ファイルに記録されます。

保管証書遺言は、自筆証書遺言と異なり家庭裁判所の検認が不要です。相続発生後に検認手続を経ることなく、遺言執行や相続登記等へ進められる点は、大きなメリットの一つといえます。

オンライン対応・保管後の証明請求・通知・撤回の実務

保管証書遺言は法務局が管理するため、オンラインでの手続きや、相続開始後の証明請求・通知など、実務に関わる仕組みが整備されます。この章では、利用者が押さえておきたい実務上のポイントをまとめます。

特に撤回の取扱いや、保管官の役割については従来制度と異なる点があり、注意が必要です。順に見ていきましょう。

WEB会議による本人確認・口述はどこまで可能か

今回の改正では、本人確認や遺言書保管官への口述について、法務局への出頭に加え、一定の場合にWEB会議を利用することが予定されています。制度設計次第では、自宅等からオンラインで手続きを進める道が開かれます。

もっとも、具体的な本人確認方法や電子署名の方法、システムの仕様等は今後の政令・法務省令で定められますので、今後の動向に注意が必要です。

相続人等による遺言書情報証明書の交付・閲覧請求

遺言者の死亡後は、何人も、自己を相続人・受遺者・遺言執行者等とする保管証書遺言が保管されているかどうかについて、遺言書保管事実証明書等の交付を請求できます。まず遺言の有無を確認できる仕組みです。

さらに相続人、受遺者、遺言執行者等の一定の者は、遺言書そのものや遺言書保管ファイルの記録の閲覧、遺言内容を証明した書面等の交付を請求できます。これにより、相続手続に必要な内容を確認できます。

相続人への通知制度

相続人等の一人が遺言書の閲覧等を行った場合には、他の関係相続人等にも遺言書が保管されている旨が通知される仕組みが設けられます。あらかじめ遺言者が申し出た者への通知も想定されています。

この通知制度には、遺言書の存在が一部の相続人にしか知られないまま相続手続が進んでしまうことを防ぐ役割があります。現行の自筆証書遺言書保管制度にも同様の仕組みがあります。

保管申請の撤回=遺言の撤回とみなされる点

ここは従来制度との大きな違いです。現行の自筆証書遺言書保管制度では、保管の申請を撤回して遺言書の返還を受けても、それだけで遺言そのものを撤回したことにはなりません。

これに対し保管証書遺言では、遺言者が保管申請を撤回した場合、その保管証書遺言自体を撤回したものとみなされます。一つの書面が自筆証書遺言の要件も満たす場合など、別途検討が必要なケースもあり、慎重な判断が求められます。

法務局における遺言書の保管等に関する法律 (遺言書の保管の申請の撤回)
第十四条 遺言者は、特定遺言書保管所の遺言書保管官に対し、いつでも、第六条第一項又は第七条第一項の申請を撤回することができる。
2 前項の撤回をしようとする遺言者は、法務省令で定めるところにより、その旨その他法務省令で定める情報を遺言書保管官に提供しなければならない。
3 第八条の規定は、第一項の撤回について準用する。
4 遺言書保管官は、遺言者が第一項の撤回(自筆証書遺言書又は書面保管証書遺言書に係るものに限る。)をしたときは、遅滞なく、当該遺言者に第九条第一項の規定により保管している自筆証書遺言書又は書面保管証書遺言書を返還しなければならない。
5 遺言書保管官は、遺言者が第一項の撤回をしたときは、遅滞なく、第十一条第二項の規定により管理しているその遺言書に係る情報を消去するとともに、当該情報その他法務省令で定める情報を、磁気ディスクをもって調製する閉鎖遺言書保管ファイルに記録しなければならない。
6 遺言者が第一項の撤回(保管証書遺言書に係るものに限る。)をしたときは、その保管証書遺言書については、遺言を撤回したものとみなす。

保管官は内容の法的妥当性まで審査しない

実務上、特に注意したいのが保管官の役割です。保管証書遺言では法務局が本人確認を行い、遺言全文の口述を受けたうえで保管しますが、遺言内容の法律的な適否まで審査・保証する制度ではありません。

「相続トラブルが起きないか」「遺留分の問題はないか」「この記載で不動産登記ができるか」といった点は保管官が確認するわけではありません。相続関係や財産内容が複雑な場合には、遺言内容そのものについて専門家に相談する必要性が残ります。

既存の遺言方式の改正——押印任意化と特別方式の新設

今回の改正では、保管証書遺言の新設だけでなく、既存の遺言方式についても見直しが行われます。押印要件の任意化や、特別方式の遺言へのデジタル技術の導入がその中心です。

これらは公布から1年以内の施行が予定されており、比較的早く実務に影響します。順に確認していきましょう。

押印要件廃止の対象範囲と実務への影響

改正後は、自筆証書遺言の遺言者、秘密証書遺言の遺言者及び証人、死亡危急時遺言や船舶遭難者遺言の証人等の遺言者・証人などについて、これまで方式要件とされていた押印が不要になります。

法務省はこれを「押印の任意化」と案内しています。押印してはいけないという意味ではなく、押印が有効要件ではなくなるという趣旨です。なお自筆証書遺言では、改正後も原則として本文の自書と署名が必要である点は変わりません。

死亡危急時遺言の新方式——録音・録画・WEB会議

死亡の危急に迫った方が利用できる死亡危急時遺言について、従来の方式を残しつつ、録音・録画を利用する新方式が追加されます。証人の要件も緩和され、1人以上の立会いで足りることになります。

新方式では、証人への口授、書面または電磁的記録への記載、内容の読み聞かせや閲覧、遺言者による正確性の承認といった一連の状況を、録音・録画を同時に行う方法で記録します。証人の立会いはWEB会議による方法も認められます。

なお遺言後は、従来と同様に遺言の日から20日以内に家庭裁判所へ確認を求め、家庭裁判所が遺言者の真意に基づくものであるとの心証を得る必要があります。

船舶遭難者遺言の適用範囲拡張と口頭・データ送信方式

従来、船舶が遭難した場合など限られた状況で利用されてきた船舶遭難者遺言について、対象が拡張されます。天災その他避けられない事変により生じた重大かつ急迫の危難を避けることが困難な場所で、死亡の危急に迫っている場合にも利用できるようになります。

さらにデジタル技術を利用した2つの新方式が追加されます。1つ目は証人1人以上の立会いのもと口頭で遺言し録音・録画する方式、2つ目は証人の立会いを必要とせず、口頭で遺言する状況を録音・録画しデータを特定の者へ送信する方式です。

2つ目は、災害時など周囲の人も被災して証人を確保できない場合を想定した制度です。いずれも遺言者の死亡後、証人・利害関係人・データ受信者等から家庭裁判所へ確認を求める必要があります。

改正後にどの遺言方式を選ぶべきか——経営者・事業承継の視点

制度が増えることで、どの遺言方式を選ぶべきかという判断がこれまで以上に重要になります。特に自社株を持つ経営者や事業承継を控える方にとっては、方式選びが将来の紛争回避に直結します。

この章では、経営者・事業承継の視点から、方式の使い分けと準備のポイントを整理します。

保管証書遺言と公正証書遺言はどう使い分けるか

保管証書遺言は、全文の自書が不要で法務局による本人確認・保管を利用でき、作成の負担を抑えつつ紛失・改ざんのリスクに対応できる制度です。内容が比較的シンプルなケースでは有力な選択肢になります。

一方、公正証書遺言では公証人が作成に関与します。推定相続人間で紛争が予想される、遺留分に配慮した設計が必要、財産内容が複雑、事業承継を伴う、将来遺言能力が争われる可能性があるといったケースでは、今後も公正証書遺言が重要な選択肢となるでしょう。

自社株・非上場株式を含む事業承継での遺言活用の注意点

自社株や非上場株式を含む事業承継では、株式の評価や議決権の分散、後継者への集中など、検討すべき論点が多く存在します。遺言の記載一つで、承継後の経営の安定性が左右されることもあります。

保管証書遺言は保管官が内容の法的妥当性まで審査しないため、複雑なスキームをそのまま任せるのはリスクがあります。事業承継を伴う場合は、遺言内容の設計段階から専門家が関与し、他の生前対策と組み合わせて検討することが望ましいといえます。

施行を見据えて今から準備しておきたいこと

改正法はすでに成立・公布されていますが、保管証書遺言については電子署名の方法、WEB会議による本人確認の具体的手続、申請方法、手数料、システム仕様など、今後定められる事項が多く残されています。

施行日や運用方法が公表されれば、遺言作成実務に大きな影響が生じると考えられます。まずは自社の資産・株式の状況や家族関係を整理し、どの方式が適するかの見通しを立てておくことが、いざというときの円滑な準備につながります。

まとめ

今回の改正で押さえておきたいのは、①保管証書遺言という新方式の創設、②押印の任意化、③死亡危急時遺言の新方式追加、④船舶遭難者遺言の対象拡張とデジタル方式の追加という4点です。遺言制度は今後大きく変わります。

もっとも、施行時期や具体的な運用は今後の政令・法務省令で定められます。制度が増えるからこそ、財産内容や家族関係、事業承継の有無を踏まえて最適な方式を選ぶことが重要です。

福岡アルブル司法書士事務所では、相続・企業法務・商業登記の知見を活かし、経営者の目的に沿った遺言・承継対策のご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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